― 一つの決意
翌朝、真司はいつもと違うことをした。
朝食を済ませると、スマートフォンの電源を切り、引き出しの中にしまった。
「一時間だけ。」
それだけなら大丈夫だと思った。
しかし、その一時間は思った以上に長かった。
時計を見る。
窓の外を見る。
何度も引き出しに手が伸びそうになる。
「自分は、こんなにも何かを確認したかったのか。」
真司は少し驚いた。
― 静けさの中で
何も音がしない部屋。
テレビもつけない。
音楽も流さない。
時計の音だけが聞こえる。
最初は退屈だった。
だが、しばらくすると、忘れていた感覚が戻ってきた。
子どもの頃、一人で空を眺めていた時間。
本を読んで、何時間も想像の世界に入り込んでいた時間。
「静かだ……。」
その静けさは、寂しさではなかった。
考えるための余白だった。
― 謎のメッセージ
机の上に置かれた『1984』を開くと、今まで白紙だと思っていたページに、うっすらと文字が浮かび上がっていた。
まるで誰かが、時間をかけて書いたような文字だった。
「人は答えを失ってはいない。
問いを失ったのだ。」
真司はその言葉を何度も読み返した。
「問いを失った……?」
最近の自分は、検索ばかりしていた。
「正解」を探すことには慣れていた。
でも、自分自身に問いを投げかけることは、いつからしていなかっただろう。
― 最初の問い
その夜、真司は新しいノートを開いた。
一ページ目に書いたのは、たった一つの質問だった。
「私は、本当に自分で選んで生きているのだろうか。」
書き終えた瞬間、部屋の時計が午前零時を告げた。
すると、机の上の本が風もないのにゆっくりと開く。
開いたページには、昨日までなかった地図が描かれていた。
その地図の中央には、一つの言葉だけが記されていた。
「この本は私を導いてくれている・・・。」
真司は無意識に呟いた。
「入口」
――第6話へ続く。
