第2話 1984

真司は古本から落ちた紙を、何度も見返していた。

そこに書かれているのは、ただ一つ。

「1984」

電話番号ではない。

暗証番号でもない。

何かの日付だろうか。

仕事中も、その数字が頭から離れなかった。

昼休みにスマートフォンを開くと、ニュースには景気、AI、物価、人手不足……。

不安を誘う見出しが次々と並んでいる。

「昨日はどんなニュースだったかな・・・。」

そう思ったが、昨日の話題はもう思い出せなかった。

 ―忘れる速さ―


家に帰る途中、真司はふと気づく。

「毎日たくさんの情報を見ている。でも、一週間前のニュースをほとんど覚えていない。」

情報は増え続ける。

しかし、記憶は増えていない。

まるで、次々に上書きされているようだった。

ふと気が付けば、また、あの古本屋に寄っていた。

そして、本棚を探していると、一冊の古い小説が目に入る。

題名は――

『1984』

「あの紙は、この本のことだったのか。」

真司は静かにページを開いた。


 ―本が問いかけるもの―

読み進めるうちに、真司はある一節で手を止めた。

そこに描かれていたのは、「人々が自分で考える力を少しずつ失っていく社会」だった。

誰かに命令されるのではない。

毎日流れてくる情報の中で、自分で考える時間がなくなっていく。

真司は窓の外を見つめた。

「これは昔の物語なのか。それとも、今の話なのか。」

その答えは、まだ分からない。


 ―新たな手がかり―

翌朝、いつものように出勤すると、テーブルに一枚の新聞が置かれていた。

誰かが読み終えたものだろう。

しかし、一か所だけ赤いペンで丸が付けられていた。

そこに書かれていた見出しは――

「人は一日に何回、不安を感じる情報に触れているのか。」

真司は新聞を手に取る。

「これは偶然なのか。それとも……。」

そうつぶやきながら、彼はゆっくりとページをめくった。

第3話へ続く。