第5話 静かな部屋

― 一つの決意

翌朝、真司はいつもと違うことをした。

朝食を済ませると、スマートフォンの電源を切り、引き出しの中にしまった。

「一時間だけ。」

それだけなら大丈夫だと思った。

しかし、その一時間は思った以上に長かった。

時計を見る。

窓の外を見る。

何度も引き出しに手が伸びそうになる。

「自分は、こんなにも何かを確認したかったのか。」

真司は少し驚いた。


― 静けさの中で

何も音がしない部屋。

テレビもつけない。

音楽も流さない。

時計の音だけが聞こえる。

最初は退屈だった。

だが、しばらくすると、忘れていた感覚が戻ってきた。

子どもの頃、一人で空を眺めていた時間。

本を読んで、何時間も想像の世界に入り込んでいた時間。

「静かだ……。」

その静けさは、寂しさではなかった。

考えるための余白だった。


― 謎のメッセージ

机の上に置かれた『1984』を開くと、今まで白紙だと思っていたページに、うっすらと文字が浮かび上がっていた。

まるで誰かが、時間をかけて書いたような文字だった。

「人は答えを失ってはいない。
問いを失ったのだ。」

真司はその言葉を何度も読み返した。

「問いを失った……?」

最近の自分は、検索ばかりしていた。

「正解」を探すことには慣れていた。

でも、自分自身に問いを投げかけることは、いつからしていなかっただろう。


― 最初の問い

その夜、真司は新しいノートを開いた。

一ページ目に書いたのは、たった一つの質問だった。

「私は、本当に自分で選んで生きているのだろうか。」

書き終えた瞬間、部屋の時計が午前零時を告げた。

すると、机の上の本が風もないのにゆっくりと開く。

開いたページには、昨日までなかった地図が描かれていた。

その地図の中央には、一つの言葉だけが記されていた。

「この本は私を導いてくれている・・・。」

真司は無意識に呟いた。

「入口」

――第6話へ続く。