― 扉は開いていた
真司は本の裏表紙に描かれた黒い扉を見つめていた。
「第九の扉を開けよ。」
指先で触れた瞬間、扉の絵はゆっくりと消えた。
代わりに、一つの文章が浮かび上がる。
「扉は閉じていない。閉じていると思い込んでいるだけだ。」
真司は眉をひそめた。
「思い込み……?」
その言葉が、一日中頭から離れなかった。
― 「できない」の正体
職場では新しいレジシステムが導入されることになった。
「難しそうだから若い人に任せよう。」
年配の同僚が笑いながら言った。
真司も一瞬、そう思った。
しかし、その直後に気づく。
「本当に難しいのか。それとも、自分でそう決めつけているだけなのか。」
これまで何度、
「もう歳だから。」
「今さら無理だ。」
「自分には才能がない。」
そう言って、自分で扉を閉めてきたのだろう。
― 見えない鍵
その夜、『1984』の間から、一枚の古びた鍵の絵が描かれた紙が現れた。
鍵の下には、こう書かれていた。
「人は鍵を探し続ける。だが、多くの扉は押すだけで開く。」
真司は思わず笑った。
人生でも同じなのかもしれない。
「もっと知識が必要だ。」
「もっとお金が必要だ。」
「もっと自信がついてから。」
そう考えて、一歩を踏み出せずにいた。
でも、本当は。
最初に必要なのは、完璧な準備ではなく、小さな一歩なのかもしれない。
鍵は開いているのだから・・・。
― 最後の問い
本を閉じようとしたその時、最後のページに新しい文字が浮かんだ。
「ここまで来たあなたに、一つだけ質問があります。」
真司は静かに読み進める。
「あなたは、今の人生を『選んで』生きていますか。
それとも、『流されて』生きていますか。」
ページはそこで終わっていた。
答えは書かれていない。
答えを書く場所だけが、白く残されていた。
真司はペンを手に取る。
しかし、その手は止まった。
答えは、まだ見つかっていない。
だからこそ、この物語は終わらない。
――第10話へ続く。
