第9話 第九の扉

― 扉は開いていた

真司は本の裏表紙に描かれた黒い扉を見つめていた。

「第九の扉を開けよ。」

指先で触れた瞬間、扉の絵はゆっくりと消えた。

代わりに、一つの文章が浮かび上がる。

「扉は閉じていない。閉じていると思い込んでいるだけだ。」

真司は眉をひそめた。

「思い込み……?」

その言葉が、一日中頭から離れなかった。


― 「できない」の正体

職場では新しいレジシステムが導入されることになった。

「難しそうだから若い人に任せよう。」

年配の同僚が笑いながら言った。

真司も一瞬、そう思った。

しかし、その直後に気づく。

「本当に難しいのか。それとも、自分でそう決めつけているだけなのか。」

これまで何度、

「もう歳だから。」

「今さら無理だ。」

「自分には才能がない。」

そう言って、自分で扉を閉めてきたのだろう。


― 見えない鍵

その夜、『1984』の間から、一枚の古びた鍵の絵が描かれた紙が現れた。

鍵の下には、こう書かれていた。

「人は鍵を探し続ける。だが、多くの扉は押すだけで開く。」

真司は思わず笑った。

人生でも同じなのかもしれない。

「もっと知識が必要だ。」

「もっとお金が必要だ。」

「もっと自信がついてから。」

そう考えて、一歩を踏み出せずにいた。

でも、本当は。

最初に必要なのは、完璧な準備ではなく、小さな一歩なのかもしれない。

鍵は開いているのだから・・・。


― 最後の問い

本を閉じようとしたその時、最後のページに新しい文字が浮かんだ。

「ここまで来たあなたに、一つだけ質問があります。」

真司は静かに読み進める。

「あなたは、今の人生を『選んで』生きていますか。
それとも、『流されて』生きていますか。」

ページはそこで終わっていた。

答えは書かれていない。

答えを書く場所だけが、白く残されていた。

真司はペンを手に取る。

しかし、その手は止まった。

答えは、まだ見つかっていない。

だからこそ、この物語は終わらない。

――第10話へ続く。