第6話 入口

― 地図はどこへ続くのか

真司は、昨夜現れた地図を何度も見返していた。

「入口」

その文字の周りには、道のような線がいくつも描かれている。

しかし、目的地は書かれていない。

道だけがある。

まるで、「どこへ向かうかは自分で決めろ」と言われているようだった。

真司は地図をノートに写し始めた。

そのとき、一つだけ気づいた。

地図の端に、小さな文字が書かれていた。

「入口は外にはない。」


― 見えない扉

その日、仕事はいつも通りの忙しさが続いていた。

「これをやらないと」

「あれをやって」

「次、これをお願いします」

毎日の同じ作業。

身体が覚えている。

しかし、頭の中では別のことを考えていた。

仕事が終わり、帰り道を歩いていると、一人の小学生が母親に尋ねていた。

「どうして空は青いの?」

母親は少し困った顔で笑い、

「あとでAIに聞いてみようか。」

と答えた。

真司は立ち止まった。

そして、何故か寂しさを感じた。

昔なら、本を開いたり、一緒に考えたりしたかもしれない。

便利になったはずなのに、「考える時間」が少しずつ減っている

そんな気がした。


― 本当の入口

その夜、真司は地図を見ながら考えた。

「入口は外にはない。」

突然、その意味が分かった気がした。

これまで自分は、

「もっと良い会社があれば。」

「もっとお金があれば。」

「もっと時間があれば。」

そう考え続けてきた。

でも、本当に足りなかったのは、それらではない。

「自分は何を大切にしたいのか」を考える時間だった。

入口とは、世界のどこかにある扉ではない。

自分の中にある問いを開くことだったのだ。


― 次の言葉

真司が地図を閉じようとした瞬間、新しい文字がゆっくりと浮かび上がった。

「入口を見つけた者は、次に『鏡の部屋』へ進む。」

鏡の部屋。

その名前だけで、胸がざわつく。

そこでは何を見ることになるのだろう。

真司は深く息をつき、静かに本を閉じた。

部屋の鏡には、自分の姿が映っていた。

だが、その表情は昨日までとは少し違って見えた。

――第7話へ続く。