― 地図はどこへ続くのか
真司は、昨夜現れた地図を何度も見返していた。
「入口」
その文字の周りには、道のような線がいくつも描かれている。
しかし、目的地は書かれていない。
道だけがある。
まるで、「どこへ向かうかは自分で決めろ」と言われているようだった。
真司は地図をノートに写し始めた。
そのとき、一つだけ気づいた。
地図の端に、小さな文字が書かれていた。
「入口は外にはない。」
― 見えない扉
その日、仕事はいつも通りの忙しさが続いていた。
「これをやらないと」
「あれをやって」
「次、これをお願いします」
毎日の同じ作業。
身体が覚えている。
しかし、頭の中では別のことを考えていた。
仕事が終わり、帰り道を歩いていると、一人の小学生が母親に尋ねていた。
「どうして空は青いの?」
母親は少し困った顔で笑い、
「あとでAIに聞いてみようか。」
と答えた。
真司は立ち止まった。
そして、何故か寂しさを感じた。
昔なら、本を開いたり、一緒に考えたりしたかもしれない。
便利になったはずなのに、「考える時間」が少しずつ減っている。
そんな気がした。
― 本当の入口
その夜、真司は地図を見ながら考えた。
「入口は外にはない。」
突然、その意味が分かった気がした。
これまで自分は、
「もっと良い会社があれば。」
「もっとお金があれば。」
「もっと時間があれば。」
そう考え続けてきた。
でも、本当に足りなかったのは、それらではない。
「自分は何を大切にしたいのか」を考える時間だった。
入口とは、世界のどこかにある扉ではない。
自分の中にある問いを開くことだったのだ。
― 次の言葉
真司が地図を閉じようとした瞬間、新しい文字がゆっくりと浮かび上がった。
「入口を見つけた者は、次に『鏡の部屋』へ進む。」
鏡の部屋。
その名前だけで、胸がざわつく。
そこでは何を見ることになるのだろう。
真司は深く息をつき、静かに本を閉じた。
部屋の鏡には、自分の姿が映っていた。
だが、その表情は昨日までとは少し違って見えた。
――第7話へ続く。
